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使われなくなった工場が、デザインの舞台に ── ミラノの独立デザイン展「DEORON」と、空間再生のヒント

欧州デザイン探訪、番外編。弊社社員・月坂がミラノデザインウィーク2026(ミラノサローネの会期にあわせ、市内各所で開かれるデザインの祭典)で訪れた「DEORON(デオロン)」をご紹介します。DEORONは、ひとつの家具ブランドではありません。世界中の独立系デザインを見出し、束ねる「キュレーションの拠点」です。そして今回、私たちが強く引き込まれたのは──その会場が、使われなくなった「元工場」をリノベーションした空間だったことでした。工場という産業の器が、デザインの舞台へと生まれ変わる。それは、私たちユーロJスペースが日本で取り組む用途変更・リノベーションの姿そのものでした。

DEORONとは ── Instagram発、独立デザインを束ねるキュレーション拠点

DEORONは、Instagramの一ページから育った、独立系デザインのキュレーション・プラットフォーム(ウェブショップ)です。特定メーカーの製品を並べるのではなく、世界中の新進・独立系のデザイナーやブランドから、確かな目で選んだプロダクトを紹介しています。今回のミラノデザインウィークでは、DEORONにとって2度目となる企画展を開催。50を超える国際的なデザイナー・ブランドのプロジェクトが一堂に集まり、家具や照明だけでなく、ファッション、音楽、テクノロジーまでを横断する多分野の作品が並びました。

会場を象徴していたのが、studio MOTO によるアルミのモジュール棚「Stack」。金属の反復が生む硬質な表情は、DEORONが今回のキュレーションに掲げた「アルミ・鋭いライン・生素材のインダストリアル」という方向性を、そのまま体現していました。

DEORON Stack studio MOTO アルミのモジュール棚 インダストリアルデザイン
studio MOTO によるモジュール棚「Stack」。アルミの反復が、生の空間に映える。

月坂が現地で見た ── ポルタ・ヴェネツィアの、元工場

会場は、ミラノ中心部・ポルタ・ヴェネツィアのデザイン地区にある、リノベーションされた元工場でした。アーチを描く連窓、剥き出しの木造トラス、天井から降りそそぐ光──かつての生産の場が持っていた骨格をそのまま生かし、白く塗り直された大空間に、独立系デザインの作品が点在します。

一般的な新築のギャラリーやショールームでは決して出せない、工業建築(インダストリアル)ならではの高い天井とスケール感。その素材感と余白が、一点一点のプロダクトに凛とした背景を与えていました。月坂が現地で受けた率直な印象は、「作品そのもの以上に、”場”が語っていた」ということ。工場のリノベーションが、これほど雄弁に空間を語るのかと、あらためて驚かされた、と話しています。

DEORON 会場 元工場のホール アーチ窓と木造トラス 工場リノベーション
元工場のホール。アーチ窓と木造トラスが、そのまま展示空間の骨格になっている。

空間そのものが、主役だった

DEORONのクリエイティブ・プロデューサーは、この会場を「単なる製品の展示台ではなく、シナジーとつながりを育む”生きた空間”」と語っています。実際、会場には音楽やDJのセット、そしてバーまでが用意され、訪れた人が長く滞在し、交わることを促す設計になっていました。プロダクトを「見て終わり」にせず、人が集い、体験し、語り合う──空間そのものが、一つのメディアとして機能していたのです。

使われなくなった工場が、家具や照明や音楽が息づく「デザインの舞台」へと生まれ変わる。商業空間としての集客力と、建物が本来持つ物語を同時に成立させる。プロダクトの見本市であると同時に、それ自体が一つの空間体験になっている──これが、今回のDEORONのもっとも印象的な点でした。

DEORON 元工場の大空間とピンクのダイニング 空間再生
大空間の中央に置かれた、柔らかなピンクのダイニング。無骨な工場と、可憐なフォルムの対比。
DEORON 会場のメタルのDJブース 生きた空間
メタルのDJブース。”見て終わり”ではなく、人が集い交わる仕掛け。

並んでいたもの ── 硬質なアルミと、有機的なフォルム

キュレーションの軸は、「インダストリアル」と「有機的でやわらかいフォルム」の対比にありました。アルミや鋼の直線的な家具の隣に、生き物のように波打つ花器や、曲面で構成された彫刻的なオブジェが並ぶ。硬さとやわらかさが同居することで、空間全体に緊張感とユーモアが同時に生まれていました。

独立系デザインならではの、既成概念にとらわれない表現も印象的でした。3Dプリントによる緻密な造形、繊維を積み上げた背の高い彫刻、そして布でかたどられた等身大の動物──素材も手法も自由で、「これは家具なのか、アートなのか」という問いそのものを楽しむような作品が、数多く見られました。

  • アルミのモジュール棚「Stack」など、金属の硬質な反復
  • 波打つ花器や曲面の彫刻といった、有機的なフォルム
  • 青く塗られた、塔のように背の高い彫刻
  • 布とクッションでかたどられた、等身大の動物
  • レコードとターンテーブルを組み込んだ、メタルのDJブース
  • ファッション、音、テクノロジーまでを横断する多分野のプロダクト
DEORON 有機的なフォルムの花器 独立系デザイン
波打つ有機的なフォルムの花器。硬質なインダストリアルと対をなす。
DEORON 布でかたどられた等身大の象 アート家具
布とクッションでかたどられた、等身大の象。家具とアートの境界を軽やかに越える。

なぜ”工場”が、デザインの舞台に選ばれるのか

近年、ミラノをはじめとする欧州のデザインシーンでは、元工場や倉庫をリノベーションした空間が、展示やイベントの舞台として好んで選ばれています。理由は明快です。工場や倉庫には、高い天井・大きな開口・広い無柱空間という、新築では得がたい魅力が備わっているからです。コンクリートや鉄骨、木造トラスといった素材がむき出しのまま残るインダストリアルな質感は、それ自体が唯一無二の背景になります。

そして何より、そこには「産業の記憶」という物語があります。かつて何かを生み出していた場所が、新しい用途(コンバージョン・用途変更)によって再び人を集める。この”時間の重なり”こそが、真新しい空間には決して真似のできない価値を生むのです。

DEORON 青い塔のような彫刻 元工場の大空間 天井高
元工場の高い天井が、塔のような彫刻に伸びやかな居場所を与える。大空間ならではの見せ方。

日本の空間という文脈で ── “活かす”建築のヒントとして

DEORONの会場が教えてくれるのは、「建物そのものが、最大のコンテンツになりうる」ということです。使われなくなった工場を壊さずに、その骨格を生かしてデザインの舞台に変える──これは、私たちユーロJスペースが、ホテル・店舗・商業空間のリノベーションや用途変更で日々取り組んでいるテーマそのものです。

日本にも、役目を終えた工場・倉庫・遊休施設が数多く眠っています。人口減少や産業構造の変化のなかで、こうした遊休不動産の活用・再生は、これからますます重要なテーマになっていくはずです。その骨格を読み解き、新しい用途へと”活かす”ことができれば、建物は再び人が集まる場所になります。商業リノベーション・用途変更・遊休施設の再生について、欧州のデザイン動向とあわせて、私たちは継続的にご相談を承っています。

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次回予告

次回は、コントラクト系家具ブランド「TM Leader Contract」── 遊び心と機能性をあわせ持つ、商業空間向けのブランドを取り上げる予定です。

取材・撮影:弊社 月坂 / 編集:株式会社ユーロJスペース 編集部