
ユーロJスペースパースイメージ:札幌某ホテル1階レストラン。91.398㎡の空間に68席を配置し、オープンキッチンと食材ディスプレイで北海道の食文化を表現
目次
「料理は地域の文化そのものです。それを提供する空間もまた、その土地の物語を語るべきです」
札幌で手がけた最新ホテルプロジェクトの1階レストラン設計において、私たちユーロJスペースが大切にした理念です。91.398㎡という限られた空間で、いかに北海道の豊かな食文化を表現するか。その答えは、地域食材のプレゼンテーションを空間設計の中心に据えることでした。
本記事では、世界各地のホテルレストランが実践する「食と空間の融合」を分析。キッチンデザイン、食材の見せ方、ダイニング体験の演出まで、ガストロノミーを空間化する最新手法をご紹介します。
※本記事は食事体験に特化したレストラン施設を中心に扱います。バー・ラウンジについては別記事「世界のホテルバーデザイン10選」をご覧ください。
1. ユーロJ実績:札幌某ホテル 1Fレストランの空間戦略
91.398㎡で実現する効率と体験の両立
2022年に着工した札幌の某ラグジュアリーホテルプロジェクトでは、1階レストランの設計において「見せる・感じる・参加する」という3つの体験軸を設定しました。
総面積91.398㎡(厨房含む)の空間に68席(個室2室含む)を配置。限られた面積の中で、オープンキッチンを採用することで調理風景を劇場化し、北海道産食材の「見せる収納」によって地域のストーリーを可視化しています。
地産地消を可視化する仕掛け
食材プレゼンテーションゾーンでは、鮮魚を氷上に展示することで新鮮さを演出。温度管理された野菜ショーケースは「畑の再現」をコンセプトに、まるで農園を訪れたかのような体験を提供します。ガラス張りのチーズ熟成庫では熟成過程を見せ、道産ワイン専用セクションを設けたワインセラーが北海道のテロワールを表現しています。
地元作家による器のギャラリーコーナーも併設し、料理だけでなく器でも北海道を表現。4600mmの造作カウンターでは、シェフが目の前で仕上げる「ライブキッチン」体験を提供します。
テラス席との連続性による季節感演出
屋内68席に加え、テラス24席を配置。可動式ガラスパーティションにより、春から秋は内外一体の開放的な空間として機能します。冬季は薪ストーブの炎を眺めながらの食事という、北海道ならではの季節演出を実現しました。
2. なぜ今、ホテルレストランに「劇場性」が必要なのか
食事から「食体験」へのパラダイムシフト
現代の富裕層が求めるのは、単なる美食ではなく「物語のある食体験」です。ホテルレストランの役割は、地域の食文化を世界基準で表現する文化の発信地へと進化しています。生産者との架け橋として食材の背景にある物語を伝え、五感すべてに訴える総合演出によって記憶に残る舞台を創造することが求められています。
オープンキッチンの進化系
従来の「見せる」から「参加する」へ。最新トレンドは「インタラクティブ・ダイニング」です。シェフズテーブルでは調理に参加できる特別席を設け、ゲスト自身が食材を選ぶ体験や、その場でメニューを共創するカスタムメニューシステムが注目を集めています。
3. HOSHINOYA Tokyo「ダイニング」:日本料理の本質を空間化
フレンチ技法×日本食材の融合空間
地下1階に位置する「ダイニング」(正式名:Nippon Cuisine)は、日本料理の精神性を現代的に表現した空間です。わずか24席という親密な規模で、4名用個室2室は障子で仕切られた茶室風の設え。8席のカウンターには檜の一枚板を使用し、和紙を通した柔らかな間接光が空間全体を包み込みます。
料理長・浜田統之シェフの哲学を体現するように、江戸前の魚を炭火とフレンチソースで調理。季節の移ろいを五感で感じる演出と、現代陶芸作家とのコラボレーションによる器が、日本料理の新しい可能性を示しています。
営業は夕食のみ(17:30-22:00)、コース料理¥33,000~。完全予約制により、一人一人に合わせた「おもてなし」を実現しています。
4. SingleThread(カリフォルニア・ヒールズバーグ):農園と一体化したカリフォルニア・リョカン

SingleThread:24エーカーの農園と一体化したレストラン。前面の農園ディスプレイとソノマバレーの景色が、カリフォルニア×日本の融合を表現(パースイメージ)
24エーカーの農園がレストランの一部となる
2016年にオープンしたSingleThreadは、レストラン、5室のラグジュアリーイン、そして24エーカーの農園が一体となった革新的なプロジェクトです。シェフのKyle Connaughtonと農園長の妻Katina Connaughtonによって運営され、レストランで使用する食材の70%を自家農園で生産しています。
ソノマワインカントリーの中心地ヒールズバーグに位置するこの施設は、日本の旅館(リョカン)の概念をカリフォルニアで再解釈。日本で修業したKyleの経験が、懐石スタイルの10コーステイスティングメニューに昇華されています。
日本の美学とカリフォルニアの融合
AvroKOによる設計は、2017年にJames Beard Design Awardを受賞。ダイニングルームの55席は、まるで陶芸家のスタジオのような空間デザインです。銀食器は7つの手番号付き引き出しに収納され、どのコースで使用するかが明示されています。陶器の器は装飾的に見えますが、シェフが夜のサービス中に特定のコースのために取り出す実用品です。ガラスのテラリウムは美しいビジュアルであると同時に、Katinaが毎晩フラワーディスプレイを作る作業スペースとして機能します。
土鍋料理というシグネチャー
Kyleが特に重視するのが、伊賀焼の土鍋(donabe)を使った調理です。レストラン内にはユネスコ指定の伊賀窯で使用された実際の窯棚が特徴的なアートワークとして飾られ、何百回もの窯焚きの痕跡が調理プロセスへの敬意を表現しています。この土鍋料理は、魚介や野菜を真の珍味へと変貌させるSingleThreadのトレードマークとなっています。
ミシュラン3つ星(2019年から継続)、ミシュラン・グリーンスター、World’s 50 Best Restaurants #46(2024)という世界的評価を獲得。まさに、地域性とサステナビリティを空間化した最高峰の事例です。
5. マンダリンオリエンタル東京「センス」:広東料理の新境地
天空の中華料理レストラン
37階に位置する「センス」(SENSE)は、モダン広東料理の粋を極めた空間です。墨絵風の壁画アートによって現代的に解釈された中国美術が空間を彩り、オープンキッチンでは飲茶の実演コーナーが設けられています。5室の個室はそれぞれ異なる中国の地域をテーマにデザインされ、中華料理専用にセレクトされたワインセラーが料理との新しいペアリングを提案します。
料理長アンドレア・フー氏は、伝統的な広東料理に現代的プレゼンテーションを施し、日本の食材を中華技法で調理するイノベーションを実践。点心は注文後に手作りされ、できたての味わいを提供しています。
営業時間はランチ11:30-14:30、ディナー18:00-22:00。ミシュラン1つ星(2024年版)を獲得しています。
6. ペニンシュラ東京「Peter」:グリルダイニングの新基準
24階からの眺望を活かしたライブキッチン
「Peter」は、モダングリル料理に特化した高層階レストランです。キッチンを中心にした空間設計により、客席から見えるセンターグリルが劇場的な効果を生み出します。調理風景を間近に見る12席のカウンター席、10名用のプライベートダイニング2室、そしてガラス張りのワインセラーには1,200本が収納されています。
料理長デイビッド・シャーネル氏は、和牛・魚介のグリル料理に特化。炭火・薪火・鉄板を使い分け、ソースはすべてテーブルサイドで仕上げることで、ライブ感のある体験を提供します。
営業時間はランチ11:30-14:30、ディナー17:30-22:00。グリルコース¥15,000~。
7. ザ・リッツ・ロンドン「リッツ・レストラン」:英国美食文化の殿堂
ミシュラン2つ星の正統派ダイニング
2025年2月にミシュラン2つ星に昇格した「リッツ・レストラン」は、英国の伝統的ダイニング文化の頂点に位置します。ウィリアム・ケント様式による壮麗な空間は、ジョヴァンニ・バッティスタによる天井画、6基のクリスタルシャンデリア、ピンク大理石の柱によって構成され、夕食時にはハープとピアノの生演奏が加わります。
エグゼクティブシェフ、ジョン・ウィリアムズMBEは、英国産食材のみで構成されるメニューを提供。エスコフィエの伝統を現代に継承しながら、王室御用達の品格を保つサービスを実現しています。
営業時間は朝食6:30-10:30、ランチ12:00-14:00、ディナー18:00-21:30。ドレスコード厳守の格式ある空間です。
8. フォーシーズンズ京都「ブラッスリー」:積翠園を望むカジュアルエレガンス
800年の歴史ある日本庭園との対話
「ブラッスリー」は、歴史的庭園「積翠園」を借景にしたオールデイダイニングです。全面ガラス窓によって庭園との一体感を創出し、オープンキッチンでは石窯でのパン焼き実演が行われています。朝食ブッフェエリアでは京野菜の「畑」を再現し、池に面した12席のテラス席が特別な体験を提供します。
料理長・須賀洋介氏のコンセプトは、フレンチビストロと京都食材の融合。自家製パン・ペストリーを充実させ、京野菜を使った独創的な前菜で京都の食文化を表現しています。
営業時間は朝食6:30-10:30、ランチ11:30-14:30、ディナー17:30-21:00。朝食¥6,500、ディナーコース¥12,000~。
9. ベルモンド・ホテル・チプリアーニ(ヴェネツィア)「オロ・レストラン」:ラグーンダイニングの極致

ベルモンド・ホテル・チプリアーニ「オロ・レストラン」:ヴェネツィアラグーンに張り出したテラス席。水上都市の景観と一体化した究極のダイニング体験(パースイメージ)
水上都市の美食空間
サン・マルコ広場を望む「オロ・レストラン」は、ヴェネツィアの水辺文化を体現したダイニングです。ラグーンに張り出したテラス席は特等席として人気を集め、天井から食器まで一貫してムラーノガラスを使用することで、ヴェネツィアの伝統工芸を空間デザインに統合しています。
開閉式の屋根により、天候に応じて空間の表情が変化。レストラン専用のゴンドラ乗り場も備え、水上都市ならではのアプローチを演出します。
エグゼクティブシェフ、ダヴィデ・ビゾット氏は、ヴェネツィア潟の魚介を中心に構成。リアルト市場から毎朝直送される食材を使い、伝統的ヴェネツィア料理を現代的に解釈しています。営業時間はランチ12:30-14:30、ディナー19:30-22:30。年間を通じて予約困難な人気店です。
10. セントレジス・バリ「カユマニス」:ビーチフロントの楽園ダイニング
インド洋を望む究極のリゾートレストラン
ビーチフロントの「カユマニス」は、バリ島の自然と一体化したオープンエアダイニングです。ビーチに直接テーブルを設置する砂浜ダイニング、茅葺き屋根のガゼボ席、夕日に合わせた特別なサンセットデッキ、そして夜のバーベキューエリアとしてのファイヤーピットが、リゾートならではの多様な食体験を創出します。
地元漁師から直接買い付ける魚介、スパイスガーデンから摘みたてのハーブを使用し、伝統的調理法「メガブン」の実演がインドネシア料理の現代的解釈を体現しています。
営業時間は朝食6:30-10:30、終日営業-22:30。ロマンティックディナー(プライベートセットアップ)$500~。
まとめ:地域性を活かしたレストランデザインの未来
成功する食空間の5つの要素
私たちユーロJスペースが世界の事例から学んだ、成功するレストラン空間の必須要素をご紹介します。
第一に、食材の物語を可視化する仕掛けです。オープンキッチン、食材展示、生産者情報の掲示によって、料理の背景にあるストーリーをゲストに伝えることができます。
第二に、地域文化の現代的解釈。伝統的要素を現代の快適性と融合させ、地元アーティスト・職人との協業によって、その土地ならではの空間を創造します。
第三に、季節と時間の演出。可変的な空間設計により、朝・昼・夜で変わる表情を持たせることで、何度訪れても新しい発見がある空間になります。
第四に、五感に訴える総合演出。視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚すべてをデザインし、記憶に残る「物語」を創出することが重要です。
第五に、サステナビリティの統合。地産地消の徹底、廃棄物削減システムの可視化、環境配慮を価値に転換することで、現代の価値観に応える空間となります。
ユーロJスペースの提案
地方都市でも、適切な設計とコンセプトがあれば、世界基準のダイニング体験は実現可能です。重要なのは、その土地の食文化への深い理解、地域の生産者・職人との協業体制、グローバル基準と地域性の融合、そして持続可能な運営モデルの構築です。
あなたの地域の食文化を、世界が憧れる食体験へ。
それが、私たちユーロJスペースの使命です。
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